2022. Dec 医学部内科学講座 腎臓研究室
「血液透析患者における血清セレン値と治療抵抗性貧血との関連」
Selenium Associates With Response to Erythropoiesis Stimulating Agents in Hemodialysis Patients.
Yasukawa M, Arai S, Nagura M, Kido R, Asakawa S, Hirohama D, Yamazaki O, Tamura Y, Fujimaki M, Kobayashi S, Mimaki M, Kodama H, Uchida S, Fujigaki Y, Shibata S.
Kidney Int Rep.
2022 Apr 16;7(7):1565-1574.
腎臓は赤血球造血を促すエリスロポエチン(EPO) の産生を担っており、慢性腎臓病 (chronic kidney disease; CKD) 患者ではEPO産生能が低下して腎性貧血を合併する。腎性貧血の治療にはrecombinant EPO 等の赤血球造血刺激因子製剤 (erythropoiesis stimulating agents; ESA) が用いられるが、ESAに対する反応性の低下によって高用量のESA投与が必要となる症例も少なからず存在する。このようなESA低反応性はCKD患者の死亡や心血管疾患のリスク増加とも関連することが明らかにされており、その要因を同定し、適切に是正することで貧血管理のみならず予後の改善にもつながる可能性がある。
ESA低反応性には低栄養や慢性炎症、長期透析歴といった臨床的要因が関連するものの、そのメカニズムについては十分に明らかとなっていない。赤血球造血と密接に関連する栄養素のひとつが微量元素であり、なかでも鉄や亜鉛の欠乏は貧血の誘因となることが知られている。セレン (Se) は鉄や亜鉛と同じく生体に不可欠な必須微量元素のひとつであり、免疫機能や心筋活動、造血調節といった多彩な役割を担っている。いくつかの研究により、血液透析患者では血清Se値が健常者と比べ低いことが示されているが、CKD患者に合併する貧血と血清Se値との関連についてはこれまで検討がなされていない。そこで本研究では、 血液透析患者における低Se血症の頻度ならびにESAに対する反応性との関連を解析した。
ICP-MSを用いて173名の血液透析患者で血清Se値を測定するとともに、うち145名のESA投与例において、血清Se値とESA反応性の指標 (ESA Resistance Index [ERI]; ESA製剤の必要量をBWとHbで除した値) との関連を検討した。対象患者の50%で血清Se値は成人の基準値下限を下回っており、CKD患者において潜在的Se欠乏症が高頻度に存在する可能性が示唆された。また血清Se値とERIとの間には有意な逆相関関係が認められ、両者の関連は鉄を含めた様々な背景因子を調整後も有意であった。これらのことから、血液透析患者において鉄動態に加えて血清Se値がESAへの反応性の予測に有用であること、またSe欠乏がESA低反応性の病態に関与する可能性が示された。本研究の成果はEditorialでも取り上げられるなど注目を集めている(Azancot et al. Kidney Int Rep 2022:7:1447-1449)。既存の製剤に加えてSe欠乏患者に対する経口Se製剤の開発も進められており、本研究で示唆されたESA低反応性を含め、Se補充に伴う病態改善効果の検証が期待される。
文責:柴田 茂